2013年の夏、インテル・ミラノからリバプールに渡った無名の若手ミッドフィルダーは巧みなテクニックでのボール保持やドリブルで加入初年度からアンフィールドを歓喜の渦に巻き込み、貴重なゴールを幾度となく沈めた。
ブラジルの “Little Magician”(小さな魔法使い)との愛称でも親しまれたのが、ブラジル代表MFフィルペ・コウチーニョ。リバプールでは通算201試合54ゴール45アシストと見事な数字を残し、攻撃陣を牽引した。
2015年に指揮官に就任したユルゲン・クロップ監督から信頼を寄せられ、レギュラーとして左ウイング、またはインサイドハーフのポジションで活躍。守備の強度こそ高くはないが、献身性が高く、ゲーゲンプレスにも適応していたと言って良いだろう。
しかし、2017年の夏から雲行きが怪しくなる。バルセロナ移籍を希望する同選手に対して、クロップ監督含めてクラブは残留を求めたものの、選手側の気持ちを変えることはできず。2018年の冬に、スペインの強豪クラブへと旅立った。
莫大な移籍金を残して去ったブラジル代表は、後にディフェンスリーダーとなる元サウサンプトンDFフィルジル・ファンダイクや守護神の元ローマGKアリソン・ベッカーの移籍金に費やされ、選手の退団は両クラブにとってWin-Winな取引となった。
だが、リオネル・メッシが君臨していたバルセロナに適応できずに、ローン移籍したバイエルン・ミュンヘンではチャンピオンズリーグ優勝に貢献するも、完全移籍へ移行ならず。今シーズンも前半戦はバルセロナで苦戦し続け、ラ・リーガでは苦悩の日々を過ごしていた。
リバプール復帰やプレミアリーグ強豪クラブへの移籍も取り沙汰された同選手を救ったのが、元チームメイトで、現在アストン・ヴィラを率いるスティーブン・ジェラード監督。バルセロナからレンタルで獲得すると、ブラジル代表ミッドフィルダーもすぐさま活躍し、起用に応え続けている。
リバプールを離れて以来、苦戦を強いられただけに後悔があるかどうかが気になる。『ESPN』とのインタビューで、当時の判断に後悔を抱いているかと質問されたフィリペ・コウチーニョだが、それを完全否定しつつも、成長させてくれたクラブへの感謝を口にしている。
「いや。時には決断を下さなければならず、バルセロナでプレーすることは僕の大きな夢のひとつだった。」
「でも、リバプールに対しての大きな愛情、尊敬、感謝の気持ち、そしてクラブでの長年の友情はいつも胸にある。」
「あの時、僕は決断しなければならなかったし、後悔はしていないよ。」
肌が合うのか、イングランド・サッカーでは実力を存分に発揮。かつてのように、小刻みなステップでのドリブルでゴリゴリ抜いていくことこそできなくなったが、周りを活かした連携プレーが絶妙で、レギュラーを任されている。
プレーぶりや性格を知っている元リバプールMFが率いるクラブだからこそ、チームに馴染むのも早かったのかもしれない。リバプール相手には活躍を控えてもらい、他の試合でも縦横無尽に攻撃を仕掛けるマジシャンの姿を見続けたい…