遡ること2008年。ブラッドフォードからリバプールのアカデミーに移籍した若かりし頃のアンドレ・ウィズダム。そのままアカデミーを順調に駆け上がり、トップチームでも22試合に出場するも定着ならず、ローン移籍を繰り返した。
2017年にはダービー・カウンティに完全移籍。2021年までの在籍期間において、通算145試合に出場したディフェンダーだが、2020年のロックダウン中に悲劇に襲われる。市内中心部から南東に約3キロメートル離れたトックステスを訪れたウィズダムは、帰り際に強盗に襲われ、複数箇所を刺された。
命こそ奪われなかったが、プロサッカー選手としては辛い後遺症との戦いが待ち受けていた。現在は32歳になり、FCユナイテッドに所属する元イングランドU-21代表DFは当時を振り返り、ロックダウン中だからこそ、家で大人しくしているべきだったと後悔を口にした。
「もし刺されていなかったら、今どこでプレーしていたかなんて誰にもわからない。」
「あの夜が僕のキャリアを台無しにしたとは言わないが、間違いなく変えてしまった。」
「あんな場所にいるべきじゃなかった。試合の後は家で休んでいるべきだった。でも、ロックダウン中で、外に出たくてうずうずしていた。」
「ひとりでパーティーを後にして、車に向かって歩いていた。通りに出ると、目出し帽をかぶった5人ほどの男たちがナイフを持って立っていた。 “時計をよこせ” と言われたが、僕は断って、喧嘩になった。 」
「逃げる暇はなかった。頭を使うべきだったのに、プライドが邪魔をしたんだ。」
「5分ほど揉み合っていると、パーティーからたくさんの人が出てきた。襲ってきた奴らは逃げ出し、僕は血まみれになって通りに取り残された。すべてが一瞬の出来事だった。」
「そこから家まで車で帰ることができた。15〜20分ほどの道のりだった。おそらくアドレナリンが出ていたんだろう。家に着いて初めて、複数回刺されていたことに気づいた。太ももを確認すると、筋肉が傷口から飛び出そうになっていた。」
「それで救急車を呼んだんだ。」
「身体は元通りにはならなかった。」
「もどかしかったよ。パワーもスピードも以前と同じように出せなかった。」
「復帰を急ぎすぎたんだ。焦っていたし、早くフットボールのある環境に戻りたかった。」
「それが、あの時の感情と向き合うことだったんだと思う。家にこもって、起きたことを何度も思い出すのは嫌だったから。」
「医者には、あの件で左半身に重度の神経損傷があると診断された。頭も刺されたから、今でも頭痛がする。自分の一部が失われたような感じだ。鈍い痛みが走るんだ。ほとんど痛みと言っていい。」
「(リハビリ中は)一日中部屋にこもっている日もあれば、 “やあ、みんな元気?” って少し明るく振る舞える日もあった。」
「人生で何か困難なことに直面したとき、それが何であれ、僕はひとりで乗り越えようとする。」
「支えてくれる人がいることは分かっていたけど、助けを求めなかった。だって、これは僕の人生、僕の体、僕の経験だから。」
「色々なことを乗り越えて前に進むのが好きなんだ。でも、あの出来事のおかげで、より用心深くなり、周囲に気を配るようになった。」
「僕はただ、いるべきでない場所に、いるべきでない時間にいただけだ。」
「こんなことはどこででも起こり得る。」
「神に感謝しているよ。無事で、乗り越えられたからね。」
BBC Sport
