プレミアリーグ屈指の名門リバプールFCで、いま確かな輝きを放ち始めている若き右サイドバック、コナー・ブラッドリー。その名は、北アイルランドの小さな町から世界へと羽ばたいた、希望と努力の象徴だ。ティーンエイジャーとしては若くしてトップチームの一員となり、激戦のイングランドでポジションを掴みかけている彼の歩みは、すべての若手選手にとって指針でもある。今回は、彼の少年時代からリバプールでの飛躍、そして代表での活躍までを時系列で追いながら、その内面とプレースタイルにも迫っていく。
キャッスルダーグ発、夢への第一歩

少年時代のコナー・ブラッドリーは2003年7月9日、北アイルランド西部ティロン州の静かな町キャッスルダーグに生まれた。人口わずか2,000人ほどのこの地域では、日常の多くが人と人とのつながりで支えられており、地域の結束力が強い。そのような環境が、彼の謙虚で芯の強い人格を形成したと言われている。サッカーとの出会いは早く、9歳の頃に地元のセント・パトリックスというクラブで本格的にプレーを始めた。
ほどなくして、より高いレベルを求めてダンガノン・ユナイテッド・ユースへとステップアップ。ここはかつての北アイルランド代表FWナイアル・マクギンらを輩出した、北アイルランド屈指の育成クラブであり、コナーのポテンシャルに早くから注目が集まった。幼少期の彼は、右ウイングと右サイドバックの両方でプレーできる多才な選手として、攻撃と守備のバランスを高次元で発揮していた。
また、16歳まで取り組んでいたゲーリックフットボールの影響で、競り合いの強さや瞬間的な判断力にも優れていた。身体的には発展途上だったものの、戦術理解度の高さとボール扱いの丁寧さは周囲を驚かせた。彼は当初、ポジションを固定されることなく様々な役割を担ったが、これが結果的に攻撃的センスを育てる土壌となった。左ウイングで右足カットインからゴールを狙う場面もしばしば見られ、創造性と得点能力の高さを垣間見せていた。11~12歳の頃からは栄養管理にも真剣に取り組み、練習後にはセッション内容を自らノートに書き起こして復習するという高いプロ意識を持っていた。
父ジョー・ブラッドリーは、そんな息子を常に近くで支え続けた最大の理解者であり、心の支柱でもあった。2024年2月に亡くなったが、その教えと信念は今もコナーの中に生き続けている。U-16から各年代の北アイルランド代表に選出され、U-16代表でキャプテンを務め、ヴィクトリーシールドを獲得。17歳でフル代表デビュー。以降、安定して選ばれ続けており、2024年10月のネーションズリーグでは2試合でキャプテンマークを巻いた。地元では子どもたちのロールモデルとして圧倒的な支持を集めている。
名門リバプールでの挑戦

2019年、16歳になったコナー・ブラッドリーは人生最大の決断を下す。北アイルランドを離れ、イングランドの名門リバプールのアカデミーの門を叩く。2019年9月に国際移籍の承認が下り、正式にクラブの奨学金契約を結ぶ。この時点で既に、彼の潜在能力と精神性は多くのスカウトやコーチ陣に注目されていた。
U-18チームではFAユースカップ決勝に出場し、早くも存在感を示すと、U-23チームではプレミアリーグ2で21試合に出場。3ゴール8アシストという攻撃的サイドバックとしては異例の数字を記録し、リーグの年間最優秀選手候補にも名を連ねた。鋭いクロス、絶妙なポジショニング、判断力のある守備など全てが高評価を受けた。また、トップチームとの親善試合にも参加し、ユルゲン・クロップ監督の目にも留まる存在に。
2021年9月、EFLカップのノリッジ・シティ戦でついにトップチームデビューを果たし、1954年以来初となる北アイルランド人プレーヤーとしてリバプールの歴史に名を刻んだ。その後も、プレストン・ノースエンドやレスター・シティの試合にも出場。2021年11月にはプレミアリーグ・アーセナル戦でベンチ入り。同年12月には、チャンピオンズリーグ・ACミラン戦で1分間のみだがピッチに立った。
レンタル先のボルトンでの飛躍

2022-2023シーズン、さらなる経験と実戦機会を求めてリーグ1のボルトン・ワンダラーズへレンタル移籍。この決断が、ブラッドリーにとっては転機となった。1シーズンで公式戦53試合に出場し、7ゴール6アシストという圧倒的な結果を残すと、クラブの年間最優秀選手に輝き、ボルトンのファンの心を完全に掴んだ。
右サイドを支配し続けるプレーぶりは、すでにトップリーグでも通用することを証明していた。対人守備の強さと試合中の集中力の高さは中でも秀でていた。試合を通じて走り負けることがなく、90分間常に攻守に関与し続けるスタイルは、現代的なサイドバックに必要な資質そのものだった。
プレミアリーグ、チャンピオンシップの次、リーグ1でのプレーであり、周りのレベルは桁違いなだけに、そのままリバプールのトップチームでの競争に食い込めるかは不透明だった。しかし、ユルゲン・クロップ監督は若きアイルランド代表DFにチャンスを与えると、2023-2024シーズンには所属クラブに復帰する。
トップチーム定着へ

ローンから戻ったブラッドリーだったが、不運に恵まれた。プレシーズンで負傷してしまい、およそ5ヶ月間の離脱を強いられた。負傷から復帰後、2023年11月のヨーロッパリーグ・LASK戦で途中出場し、ピッチに帰還。その翌日には長期契約を結び、クラブでの将来に忠誠を誓った。 同シーズンにおいて、トレント・アレクサンダー=アーノルドが負傷離脱する中、右サイドバックのスタメンに抜擢される。
プレミアリーグ・ボーンマス戦でアシストを皮切りに、1月31日のチェルシー戦では1ゴール2アシストの圧巻のパフォーマンスでマン・オブ・ザ・マッチに輝いた。 対峙した元イングランド代表DFベン・チルウェルを混乱に陥れ、経験豊富な左サイドバックはイライラを隠しきれなかった。ファンからは “There’s only one Conor Bradley” (コナー・ブラッドリーは1人しかいない)というチャントも生まれ、クロップ監督も絶賛を惜しまなかった。
このシーズンはトップチームでの評価を固めるに重要なシーズンとなった。プレミアリーグで10試合で先発出場を果たし、シーズンを通じて23試合1ゴール6アシストを記録。トレント・アレクサンダー=アーノルドの控えとしてのポジションを確保。アルネ・スロット監督に代わってもなおその立場は崩れず、2024-2025シーズンも20試合以上でピッチに立ち、チャンピオンズリーグやプレミアリーグなどを舞台に経験を積んだ。
終わらない挑戦
コナー・ブラッドリーのサクセスストーリーは、まだ始まったばかりだ。クラブではさらなる契約延長の報道もあり、代表では中心選手としての役割を担い始めている。加えて、イングランド代表DFトレント・アレクサンダー=アーノルドが今季限りで満了となる契約を延長しないことを発表し、レアル・マドリードに加入する。これまでレギュラーを務めた右サイドバックが不在となる来季は先発としての活躍が求められる。
新たな右サイドバック確保の噂も持ち上がっているが、アレクサンダー=アーノルドが君臨していた時代よりも公平なレギュラー争いが繰り広げられるはずだ。プレシーズンを始め、来シーズンのはじまりで好パフォーマンスを披露することができれば、一気に右サイドバックにおけるスタメンの座を掴み取れるチャンスがある。
当面の懸念は、プレーのレベルを高め、その継続性を保ち続けること。また、負傷癖も治したいところ。毎週のように2試合をプレーしてきた経験がないため、その強度にどこまで対応できるかどうかは監督やコーチ陣の力量が問われる。他方、選手としてもコンディションを維持し、怪我をしない体作りが求められる。
その点については、第一線であまり怪我なく活躍をし続けてきたエジプト代表FWモハメド・サラーを筆頭に、頼れる先輩が在籍しているだけに、現役のトッププレーヤーからのアドバイスをうまく取り入れていくことも、プロフェッショナルのサッカー選手としての成長に繋がること間違いなし。
今後数年間で、北アイルランド出身ディフェンダーの未来が決まると言って支障ない。コナーはどこまで成長し、世界中のリバプールファン、そして北アイルランドの人々を魅了できるのか注目が集まる。
