2019年のチャンピオンズリーグ。当時RBザルツブルクに所属していた日本代表・南野拓実は、リバプールの本拠地で印象的なパフォーマンスで、、加入前からサポーターの心を掴んだ。まもなくして、リバプール加入が発表されると、ロベルト・フィルミーノのバックアップとしての役割を期待された。日本でもチャンピオンズリーグ優勝クラブへの移籍は大々的に報道された。
ユルゲン・クロップ監督からの高い信頼とは裏腹に、プレミアリーグへの適応に苦しみ、出場機会は限定的。30年ぶりにプレミアリーグ優勝を果たしたチームの一員となったが、同選手は素直に喜ぶことは難しかった。今季はプレシーズンで見事なプレーを見せ、出番が増えるかに思われたが、本番では低調なパフォーマンスに終始。肝心の攻撃面でリーグ初ゴールまで1年かかるなど、周りからの期待に応えられずにいた。
加入直後には新型コロナのパンデミックによるロックダウンが英国で実施され、サポーターがスタジアムから締め出された。選手たちも離れて暮らす家族に会えず、普段の生活が出来ない状況に陥り、精神的に苦しい時期を過ごすことになった。初めてのイングランド生活を始めたばかりの南野本人も、当時の苦難を認めている。
「最初のロックダウンは非常に大変だった。飲食店は軒並み閉まっているし、いつサッカーが再開されるか誰にも分からなかった。当時はほんとに日本に戻りたかった。誰にも会えなかったから、精神的にもとても難しかった。」
今夏にはウルヴァーハンプトン・ワンダラーズからポルトガル代表FWディオゴ・ジョッタを獲得。モハメド・サラーやサディオ・マネ、ロベルト・フィルミーノらで形成するフロントスリーにすぐに馴染み、前半戦から得点を量産していた。プレミアリーグ経験もあるライバルの加入で、プレシーズンの好調も、序列が下がってしまう。
爆発中だったジョッタが負傷離脱していた期間において、徐々に試合数を増やしていったものの、なかなか結果に結びつかず。ポジションを争うスイス代表FWシェルダン・シャキリや元ベルギー代表FWディボク・オリギらも少しずつ出番が与えられ、南野拓実はベンチを温める日が多くなっていった。スタメンの座おろか、試合にすら出れない苦境についても言及している。
「あのチームで出場機会を得るのは難しい。加入当初から困難なチャレンジだと理解していたから、決して腐ることはなかった。トレーニングにおいてもね。」
「とにかく試合でプレーするため、先発メンバーに名を連ねるために必死だった。そうした目標を達成するため、自分に何ができるかを見出したかった。」
序列が下がり、試合に出られない環境は選手にとっては好ましくない状況。悩む日本代表のエースに対して、移籍期限ギリギリで同じくプレミアリーグのサウサンプトンからローン移籍の打診が飛び込んできた。出場機会を強く望んでいた同選手は、決断を下すまでに時間はかからなかったと語っている。
「いろんな視点から考えるべきことはたくさんあった。けど、クラブに出ていきたいと伝えるまで、それほど時間はかからなかった。」
「最小限の荷物だけ持って、車に乗り込んで飛び出してきた。正直に言えば、あの経験は二度としたくはない。だけど、良い経験だったのかもしれない。」
「オファーをもらえて、素直に嬉しかった。ライプツィヒを率いていた頃からラルフ・ハーゼンヒュットル監督は知っていたし、電話で話したときには僕を知っていると言ってくれて、大きな助けになったのは確かだね。」
リバプールに残留をしていても、負傷者が続々と戻ってきている現時点で出番は増えるどころか、減る一方だったかも知れず、レンタル移籍の決断は正しいものであった。加入後すぐに最高の成果を出したが、最近はふたたびベンチを温める日々が続いている。日本代表に参加するための長期移動などもあり、休養を余儀なくされた試合もあったが、絶対的な地位を築くに至っていない。
さらには、エバートンからローン移籍中の元イングランド代表FWテオ・ウォルコットの完全移籍を優先しているとの報道も出ており、今季終了後にはアンフィールドへと戻ることが濃厚。チャンピオンシップで大活躍中のFWハーヴェイ・エリオットが復帰し、新たなフォワード獲得を狙っているとも報じられるリバプールでの立場も危うい可能性も否めない。
試合数が少なくなっている現時点で、今後どれほどの試合に出られるかは不明。それでも、数少ない試合で好パフォーマンスを披露し、サウサンプトンが是が非でも獲得したくなるような活躍を見せたいところ。結果的に、リバプールでの定位置争いを加速させることにつながる…はずである…