ギオルギ・ママルダシュヴィリ。ジョージアが誇る若き守護神が、ついに世界の舞台へと羽ばたく時が来た。バレンシアでの躍進、EURO 2024での歴史的な快挙、そして2025年の夏にはリバプールに新天地を求めた。彼のキャリアは、まさに“鉄壁”の二文字にふさわしい。欧州全体が注目するこの男の軌跡を、改めて紐解いていきたい。
トビリシの血統…サッカー一家に生まれた守護神

2000年9月29日、ジョージアの首都トビリシに生を受けたギオルギ・ママルダシュヴィリ。父ダヴィトは元プロサッカー選手であり、引退後はFCガグラでゴールキーパーコーチを務めていた。そんな父の背中を追い、ギオルギは幼少期からサッカーに親しみ、FCガグラのユースチームでその才能を開花させていく。
2010年10月、地元のユース大会で「ベストゴールキーパー」に選出されると、その名は早くも注目を集めるようになる。12歳でジョージア屈指の名門、ディナモ・トビリシのアカデミーに加入。ここで彼は、後にナポリでスターとなるクヴィチャ・クワラツヘリアらと共にプレーし、将来のジョージア代表を担う多くの才能と切磋琢磨する日々を送った。
ディナモ・トビリシのアカデミーで、ママルダシュヴィリは順調にステップアップを重ねていく。U15チームのレギュラーとして活躍し、特にペナルティキック阻止において驚異的な才能を発揮。ヴィタリー・ダラセリア国際ユース大会では決定的なPKをセーブしてチームを5位に導き、U-15ユースリーグ決勝では3本のPKを止めて優勝に貢献。2016年のシェリフカップでもPK戦での活躍が光り、そのプレッシャー下での強さは際立っていた。
これらの実績が評価され、彼はすぐにジョージアのユース代表に招集されるようになる。17歳以下のチームで2016年10月3日にデビューし、その後19歳以下のチームでもプレー。シニアチームの練習キャンプにも参加するようになるが、2018年シーズンは13試合でベンチ入りしたものの、出場機会はなかった。
プロフェッショナルサッカー選手の道へ
トップチームでの出場機会を求め、ママルダシュヴィリはレンタル移籍を選択。2019年シーズンはFCルスタヴィでプレーし、リーグ戦28試合に出場して7回のクリーンシートを記録。チームは昇降格プレーオフで敗れたが、彼のパフォーマンスは高く評価され、U-21ジョージア代表に初めて招集される。
2020年からはFCロコモティフ・トビリシに2年間のレンタルで加入。パンデミックの影響で試合数は減ったものの、チームはリーグ4位、カップ戦準優勝という好成績を収める。ママルダシュヴィリ個人としても、リーグ戦11試合でわずか11失点、4回のクリーンシートを記録し、このシーズンのエリヌリ・リガ(ジョージア国内リーグ)で年間ベストゴールキーパーに選出された。
20歳で早くも国内最高のゴールキーパーとしての評価を確立した。ロコモティフ・トビリシでのレンタル期間は2021年シーズンも延長され、彼はUEFAヨーロッパリーグ予選でグラナダCFと対戦。この試合での印象的なパフォーマンスが、後に彼をバレンシアCFへと導くきっかけとなる。
スペインのラ・リーガへの挑戦…バレンシアでの台頭

ママルダシュヴィリの活躍は、ヨーロッパのクラブのスカウトの目に留まるようになる。その中で最も早く動いたのが、スペインのバレンシアだった。2021年の夏、彼は当初リザーブチームであるVCFメスタージャにレンタルで加入。
レンタル料は5万ユーロ、買い取りオプションは80万ユーロだった。しかし、プレシーズン中にチームの正ゴールキーパーたちが負傷したことで、当時のホセ・ボルダラス監督は彼にチャンスを与える。
ママルダシュヴィリはプレシーズンマッチで強い印象を残し、開幕戦のヘタフェ戦でいきなり先発出場。このデビュー戦でクリーンシートを達成し、ラ・リーガ第1節のベストゴールキーパーに選ばれるという鮮烈なデビューを飾った。バレンシアでプレーした初のジョージア人選手となった。
開幕から6試合連続でゴールマウスを守ったが、レアル・マドリード戦やセビージャ戦での失点が続いたことで、負傷から復帰したヤスパー・シレッセンにポジションを譲ることになる。約4ヶ月半ベンチを温める時期が続いたが、バレンシアは2021年末に彼の買い取りオプションを行使することを決定。
2022年2月、シレッセンの再びの負傷によりチャンスが巡ってくると、ママルダシュヴィリはその機会を逃さず、シーズン後半戦で再びスタメンに定着し、安定したパフォーマンスを披露。バレンシアでのシレッセンの時代は終わりを迎えた。
2022-23シーズンに入ると、彼は完全にバレンシアの正ゴールキーパーとしての地位を確立。ジェンナーロ・ガットゥーゾ、そしてその後のルベン・バラハ両監督の下で不動の守護神となり、2022-23シーズンのラ・リーガでは全試合全時間出場を果たした。
これはバレンシアのゴールキーパーとしては24年ぶりの快挙であり、また、バレンシア史上最年少でリーグ戦50試合出場を達成した。クラブの混乱や不安定な守備陣に助けられない場面もあったが、彼の個人能力によって多くのピンチを救った。2022年9月には2027年までの新契約にサインし、契約解除金は約8,800万ポンドに設定された。
身長197cmの長身に加え、驚異的な反応速度を併せ持つママルダシュヴィリ。至近距離のセーブやクロス対応、PK阻止に至るまで、あらゆる面で抜群の安定感を発揮する。一方で、足元の技術という課題にも地道に取り組み、ガットゥーゾ監督の下でビルドアップにも対応できるGKへと成長。何より特筆すべきは、ミスを引きずらない強靭なメンタル。これが、彼をトップレベルで戦えるGKたらしめている。
ジョージア代表の躍進とリバプール移籍決定

EURO2024で、ジョージア代表が歴史的ベスト16進出を果たした影には、ママルダシュヴィリのビッグセーブがあった。格上相手に冷静沈着な守備を見せ続け、チームを救う場面は数知れず。
この活躍により、2024年の「ヤシン・トロフィー」最終候補10名にも選出。23歳で名を連ねた相手は、ドンナルンマ、コスタ、メニャン、マルティネスといった世界のトップGKたち。彼の実力が国際的にも認められた証だ。
2024年の夏、リバプールはわずか2900万ポンドの移籍金でママルダシュヴィリの獲得を発表。2024-25シーズンはバレンシアでプレーを継続し、今年の夏から本格的加入を果たした。アリソン・ベッカーの後継者として、長期的なプランの一環としての獲得とされている。
ママルダシュヴィリ自身も「戦う準備はできている」と語り、ポジション争いにも前向き。英語の習得にも励み、既にプレミアリーグへの適応を視野に入れている。
ユース時代から注目を集め、母国ジョージアの歴史を塗り替え、スペインでスターダムを駆け上がったギオルギ・ママルダシュヴィリ。そして次なる挑戦の舞台は、イングランド・リバプール。
そのセービング力、精神力、そして成長への飽くなき意欲は、彼がヨーロッパ屈指のGKへと上り詰める未来を確信させる。24歳とキャリアも中盤に移行する中、世界の舞台で輝く準備は整っている。
